老舗と技術提携し、英国の伝統製法を習得
国内外で高い評価を得ている宮城興業は、設立初期にイギリス製靴の聖地とも呼ばれるノーサンプトンにあるバーカー社の門を叩いて技術提携を結び、グッドイヤーウェルト製法を学んだ。その技術は今も受け継がれ、伝統的な靴作りを志す職人が日本全国から宮城興業に集い、約50名の職人が手仕事を大切にしながら靴作りに勤しんでいる。社名をブランド名に冠した〈MIYAGI KOGYO〉は、その技を最大限に活かしたドレスシューズを展開。トラディショナルなブリティッシュスタイルに日本人らしい細かい配慮が融合され、独自に開発した木型や構造で快適な履き心地の一足に仕上げている。バーカー社に教わった「革に勝る素材なし、熟練された技に勝る機械なし」という靴作りの哲学は、宮城興業を支えるコンセプトとして掲げられているのだ。
多品種小ロット生産でユーザーに寄り添う
多品種小ロット生産の体制を採用しているのも宮城興業の大きな特徴。2000年代までは主に大手シューズメーカーのOEMを量産していたが、新たな武器として少ないロット数の生産も開始した。しかし、小ロットでは開発費がかさむため、一足あたりが高価になってしまう。そこで宮城興業は、裁断などの工程に工夫を凝らして、少ない数のOEM生産でも価格を抑えながらブランドが思い描くデザインに仕上げることに成功した。また、〈謹製誂靴(きんせいあつらえぐつ)〉というエンドユーザーが豊富なサイズバリエーションの中から、最適なサイズを選択できるサービスを開発。100通り以上も用意したサイズ(足長)とウィズ(足囲)の採寸用ゲージ靴を試着した上でさらに微調整を行い、ベストフィッテングを目指している。高額なビスポークであつらえたとしても、フィッティングに納得できないことがありリスクが伴う。しかし、〈謹製誂靴〉なら4万円代からの価格で手に入る上に素材などを好みに選べて、グッドイヤーウェルト製法によるソールの張り替えにも対応するので長く愛用できる。全国のシューズショップやスーツテーラー、アパレルショップで導入され、お店や顧客から好評を得ているそうだ。早くから一人ひとりに合った靴作りに取り組んできた宮城興業。その姿勢は、「世界一の靴作りを目指して」という一文が社是の中にあるように、ユーザーの満足度こそ「世界一の靴作り」に繋がると捉えていることに由来する。
革靴の技術とデザイン性を投影した新たなスニーカー
革靴だけではなく、カジュアルやコンフォートを追求したブランドも複数展開するのも、宮城興業のポイント。その中でも注目したいのは、2019年から展開し始めたスニーカーブランドの〈えむわい〉だ。現代のライフスタイルに求められる靴作りをコンセプトに、スニーカー通勤など時代に寄り添った提案をしている。長きにわたり革靴を作ってきたメーカーらしく、革靴のデザインをスニーカーのアッパーに落とし込み、革靴と共有しているキメの細かい上質なレザーを贅沢に使用。歩きやすさを考慮して、ビブラム社の軽量で厚手のソールなども採用する。そして革靴と同様に、手作業でアッパーの縫製や底付けを行っているため、完成度の高さは折り紙つき。レーザー加工機を用いてアッパーにデザインを施すなど、最先端の機械設備の導入と、受け継がれてきた手仕事を組み合わせて完成に導く一足は、まさに伝統と革新が交差した仕上がり。そのデザイン性と快適な履き心地の両立が〈えむわい〉の魅力なのだ。デザイン面で宮城興業の革靴を愛用している人に向けて、快適な履き心地で革靴に馴染みの薄い人に向けてのアプローチにも繋がり、数々のこだわりや新たなアイデアから他社のスニーカーとの違いをはっきりと感じられるだろう。
チャレンジ精神を胸に世界一の靴作りを目指す
シューズ以外にも、靴作りで生じた端材を使用したレザー小物シリーズ〈タフスタッフ(tuff stuff)〉も製作。動物の大切な命からいただいたレザーを無駄にすることなく、本社に併設しているショップで販売を開始した。そういった新しい取り組みに積極的な姿勢からも、宮城興業の未来へチャレンジする思いが感じられるはず。そして、2020年から新たな提案としてスタートしたのがトランクショーだ。デザインサンプルを大きなトランクケースに入れて、宮城興業の商品取り扱いの有無を問わずにショップに貸し出すポップアップショップのことで、ショップは在庫を抱えずに宮城興業のシューズを販売でき、顧客は靴に直接触れられるため、全国から開催要望の声が届くまでに。常に技術を磨きながら挑戦を続ける宮城興業は現状に満足することなく、これからも新しい靴+αを世界へ発信し続ける。